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別冊宝島93「別冊宝島93 プロ野球の悩み野球狂のための脱プロ野球読本」 1989

【メディアの進化論】

衛星ニューメディアが野球中継を変える

12球団の全試合が常に完全中継され、どれでも自由にアクセスできる。ファンのそんな夢を可能にする、衛星ニューメディアの現在と未来!


  腐っても巨人、というのが、長らく球界とテレビ界の共通の常識だった。いや、今に至るもその事情は変わらない。
  V9時台の栄光はほど遠く、74年からの15年間で、日本一の座に就いたのは81年の1回だけ。ONのようなスーパースターもいない。それでもテレビは全国ネットで巨人戦130試合すべてを放映し、それがまた常時20%を超える視聴率をキープする。球場にも、全試合に満員の観客がつめかける。それがたとえ、優勝を逸したあとの、弛緩しきった消化試合であっても、だ。
  プロ野球を心から愛するまともなファンが、ペナントレース終盤の、たとえば中日と広島、西武と近鉄の激しい首位攻防戦を見たいと望んでも、ゴールデンタイムの全国テレビ中継には、超然として巨人戦が流される。「球界の名手」というわけのわからない開き直りが「実力の勝負」を退け、「巨人神話」という愚かな妄執が「ペナントレースの現実」をブラウン管から駆逐する。
  依然として巨人偏重のメディア環境の中に、我々は閉じこめられている。しかし、堅牢な監獄にも似たこの状況にも、わずかに亀裂が走りつつあると教えてくれたのは、『Number』誌の編集スタッフの一人である。
  「巨人の圧倒敵意優位というのは、まだまだ当分揺るがないでしょうね。巨人をメーンにすえないと、今でも雑誌は売れないですから」
  とは言いつつも、変化の兆しはあると、彼は続ける。
  「野球の特集は定期的に組むんですけど、かつてパ・リーグを扱って成功したためしがなかった。それが去年あたりから変わってきて、西武が日本一になったときの特集号が完売。この3月に出したパ・リーグ特集号も、普段より多目に刷ったにもかかわらず、売れ行き好調でしたからね」
  それは、なぜなんだろう?
  「パのほうが日ハムの西崎とか近鉄の阿波野とか、若いスターが多いということも一因でしょうし、もちろん西武のV3は大きい。でも長期的に考えたら、『プロ野球ニュース』の影響が大きいんじゃないかな。それまでのスポーツニュースって時間が短くて、巨人だけは映像で流れるけど、他の球団は試合結果がスコアで映されるだけだったでしょ。ところが『プロ野球ニュース』が始まってからは、12球団まんべんなく映像として流れるようになりましたから。活字媒体の人間としては言いにくいことだけど、たった3、4分でも映像の力は大きいですよ」
  活字においては、情報は高度に抽象化されてしまう。「四打数一安打、三打点、一本塁打」という記号だけでは、そのホームランがどれほど美しかったか、あるいはいかに劇的だったかを伝えることは難しい。
  また、西武時代の金森が、死球を受けたときの大げさで愛嬌たっぷりのリアクションによって、全国区の人気者になったということも、テレビの力がなくてはあり得なかったはずだ。


プロ野球におけるデモクラシーの実現


  「番組をスタートした当時は、プロ野球の話題だけで45分間のワイドショーを組むこと自体、冒険であり、画期的なことだったと思います。野球というものの、テレビにおける価値を、はっきりさせたんじゃないですか」
  「プロ野球ニュース」編集長であり、同時にフジテレビの野球中継の担当責任者でもある浜口哲夫氏は、「手前味噌ですが」と前置きしつつ、同番組の功績について語る。
  「以前のスポーツニュースは、首位攻防戦か巨人戦だけにカメラが入って、あとは記者だけが出かけて結果をテロップで流すだけでしたが、ウチの場合は、全試合の前投球全打席を収録しますから。そのため"珍プレー・好プレー"などの、試合のない時にオンエアする関連企画の素材にも事欠きませんし、結果として、巨人一辺倒の状況が、この十年でだいぶ変わってきたと思います」


三割にも満たない巨人ファン


  昨年秋、一般視聴者モニターを募集したときのことだ。全国から三千人を超す応募があったが、その中で「巨人ファンである」と明言したのは、わずか三割にも満たなかったという。しかもその巨人ファンの約7割は40歳以上、十代、二十代の若いファン層には、巨人ファンはきわめて少なかった。
  「若いファンは両極端ですね。日ハムの西崎なんかを追っかけてる女の子たちと、一方で特定球団にこだわらず、ゲームそのものを見つめ、野球に対して一家言持ってるようなファンと。ミーハーのファンも必要です。また、昔ながらに地元球団を応援する熱狂的なファンもいていい。ですが、野球のゲームそのものを見つめようとする浮動層のファンが増えてきたことは、野球環境を変えてしまうかもしれない。そういう変化は、大いにありうると思います」
  とはいえ、このファン層の変化は即そのまま巨人神話の崩壊とは直結しないようだ。東京ドームは相変わらず満員だし、巨人のテレビ中継は高視聴率を稼ぎ出す。
  「巨人戦130試合というのは、たとえていえば130個のダイヤモンドみたいなものですよ。ペナントレースの行方なんか関係なく、20%台の視聴率をとる。ところが、巨人戦の放映権は日本テレビが半分、残りを各局で分け合うというシェアが決まっていて、いくらカネを積もうと、もうこれは変えられない。カネになるゲームの数が限られているということは、要するにプロ野球そのものが限界産業であるということです。ONがいなくて、新しいスターもいなくて、弱い巨人戦しか視聴率がとれないとしたら、プロ野球界全体がある種の限界に突き当たっていて、これ以上の発展はもうのぞめない。だから我々は、西武に期待するわけですよ。西武戦の中継は従来はデーゲームが多かったんですが、今シーズンからはゴールデンタイムのナイターが増えるんです。TBSだけでなく、テレ朝もウチもやる。各局あわせて全部で十数試合放映することになるんじゃないですか。これは大きな賭けですよ。巨人戦の裏番で5%を切ると、やはり巨人を超せないのかと、悲観的にならざるをえないでしょうね。8%とればまあまあ、10%いけば万々歳ですよ。そうしたら来年は放映本数が倍増するでしょう。我々、テレビ業界の人間の目下の関心は、西武のV4なるか、V5、V6と重ねて、V9を達成するかという一点につきます。そうなれば、西武戦130試合が新たなダイヤモンドになるでしょう。宝石の数が倍になるわけです。パがセと肩を並べ、頭のつかえているプロ野球界全体の天井が、高くなる。はっきり言えば、今、プロ野球が発展するということは、巨人が9年ぶりに日本一になることではなく、パ・リーグが西武を先頭に、巨人中心のセの優位という秩序を壊すことです」


読売グループの作り上げた情報の鎖国


  マジョリティー・イズ・ライト。大衆の欲望の最大公約数をうつす鏡である、というのが、テレビの公理であるが、しかしそれだけではない。テレビはマジョリティーを形成するシステムでもある。忘れてはならない重要なことは、我々の大半はブラウン管の映像を通じて疑似イベントとしてのプロ野球を見ていることだ。一つのゲームに対して、球場に実際に足を運んで直接体験できる人間の数は、多くても5万人。それに対して、テレビを通して「体験」する人の数は、視聴率10%で約1千万人にもなる。そうした疑似体験を連日連夜、反復させられることで、巨人ファンというマジョリティーは形作られてきたのだ。
  慶応大学文学部で社会学を専攻する青池慎一教授は、映像メディアのもつ力と、それがもたらす歪みについてこう語る。
  「メディアというものは、そもそも現実のすべてを伝えるものではない。情報を出力するとき、あるものは通しあるものは通さないという、ゲート・キーピング・ファンクションをもっている。日本のテレビ局はどこも、どういうわけか同じ基準でゲート・キーピングをしているわけです。なぜか日テレに追随して、巨人戦しか流さない。かつては大義名分がありました。巨人には伝統があり、実力があり、人気もある。ところが今はその錦の御旗が色あせてきている。巨人よりも強くて魅力的なチームがあるらしいと、テレビ以外の回路からの情報で知っている」
  「ところが、いくらすごいスターがいて、美しいプレーを見せ、チームとして実力があっても、映像メディアがとり扱わないと、人気を形成することができないわけです。メディアには脚色力があって、英雄をつくりだす力がある。ひとつのプレーがスローモーションで繰り返され、解説者によって絶賛されることで、球場で見る現実を超えて美化されてしまいます。そういう効果をテレビはもたらすわけです」
  青池教授は、巨人人気が圧倒的に強い北海道出身。「巨人ファンか否か」という選択肢しかなかった世代に属する。長嶋解任で「ハッと目がさめて」、巨人ファンをやめたが、ではどの球団を応援したらいいか、どこにどんなプレイヤーがいて、どんな美しいプレーを見せてくれるのかわからず、この数年宙吊りになったまま、という。
  「今は、読売グループの作り上げた情報の鎖国状態から、ようやく開国へ向かいつつある時代。これからは、変わっていくでしょうね。『巨人ファンか否か』ではなく、『12球団のうち、どれが好きか』という多様な選択が可能にならなくてはなりません。それこそが、プロ野球におけるデモクラシーの実現です」


自由競争原理が好ゲームをつくる


  巨人戦にチャンネルをあわせ、巨人を応援するということは、自分がマジョリティーに所属していることを確認して安心を得ることでもある。茶の間でだらしなくビールでも飲みながら、強いマジョリティーの象徴である巨人が、弱いマイノリティーを今日もやっつけるのを見る。かくて天下泰平、ブラウン管のこちら側にいる我々の精神的安定も保たれる、というのがV9時代の、テレビを媒介した巨人と巨人ファンの関係のあり方だった。告白すれば、僕もまたその中にいた。
  この、ある意味ではとても幸福な関係は、むろんとっくの昔に破綻をきたしている。にもかかわらず、なおも長年の習慣は容易に変えがたい。テレビの前に今夜も座り、弱い巨人に苛立ち腹をたて、ストレスをいたずらに蓄積し、しかし明日もまた巨人戦のナイターを見てしまうであろう自分を呪うというのが、今日の巨人ファンの悲しい現実なのだ。
  愛はすでに冷え、欲求は満たされず、それでも別れられない腐れ縁の間柄に、それはとてもよく似ている。このままどこへもいかず、苦くも甘い底なしの愛憎の泥沼に溺れていたい、という心情も理解できなくはない。だがここはひとつ、やはり前向きに人生の出直しをはかろう。涙こらえつつ悪縁を精算し、ジリツしたプロ野球ファンになろう、というのが元巨人ファンとしての反省であり、決意でもある。
  そして問題は、ところでその後どうすればよいのか、ということだ。ジャイアンツとは別れたものの、行き場のないリビドーを抱えて途方にくれる、というのではやはり困る。贅沢を承知でプロ野球ファンとしての願いを言えば、12球団の6試合すべてが常に完全中継され、視聴者はそのうちのどれにでも自由にアクセスできる、という環境が理想だ。我々はそのシーズン、もっとも魅力のあるチームの試合中継にチューニングする。ペナントレースから脱落すれば、それが即、視聴率に響くだろうから、どの球団もチーム強化に今以上に熱心になり、白熱したゲームが見られるようになるだろう。その結果、昨年の近鉄・ロッテ最終戦のような、野球が本来持つ魅力に満ち満ちた好ゲームが一試合でも多くなれば申し分ない。自由競争原理をいささか楽観的に信じれば、そういうことになる。
  しかし、それはあくまで理想にすぎない。現実は、そこから果てしなく遠いところにある。西武がらみのカードの放映本数が少しばかり増えるからといって、その程度のことで偏セ・偏巨人の歪んだ情報環境が大きく変わるだろうか。
  関西のパ・リーグ球団のある選手OBが、パが人気でセに遅れをとっていることに対して、悔しそうにこう語っていたことがある。
  「西武が毎日新聞やTBSを買いとって、巨人のように西武の情報をガンガン流したらええんや。そうしたら、パはあっという間にセに肩を並べられるんやけどなぁ……」
  西武が全国区のメディアを手に入れて、覇権をとなえるという噂は、過去に幾度となく流れては消えた。
  周囲の思惑や憶測をよそに、西武がとっている球団経営方針は、営業的にはローカルに徹していて、どちらかといえば大リーグのフランチャイズ重視のあり方に近い。そしてそのサポートをしているのが、テレビ埼玉である。
  テレビ埼玉は、埼玉ローカルのUHF局であるが、78年の開局以来、「TVSライオンズアワー」と銘うって、西武のゲームを年間70本あまりも放映してきた。、78年は、ライオンズが西武に買収されて、新しいスタートを切った年でもある。西武ライオンズとテレビ埼玉は、この11年間寄り添いながらともに歩んできたことになる。
  浦和市にあるテレビ埼玉の本社に、報道制作局の高橋忠治プロデューサーをたずねた。
  「ライオンズ中継はウチの看板番組、力を入れてます。パのゲームをこれだけ積極的に放映している局はない、という自負もあります。TV神奈川が、神奈川県内の大洋とロッテの試合を流すといっても、それぞれ年間に数本〜十本程度ですし、関西のU局であるサンテレビやKBS京都が近鉄やオリックスをとりあげるといっても、ウチほどの本数ではない。ウチは年間70本前後。完全中継で、しかもはっきりと西武びいきの応援色を打ち出してます。地元埼玉では、ライオンズといえばテレビ埼玉、テレビ埼玉といえばライオンズと、もうすっかり定着してます。以前は埼玉といえば圧倒的に巨人ファンの多い土地柄だったんですが、今では西武ファンのほうが多いと思いますよ。地元へのライオンズ人気の定着に、ウチは一役買ったと自負しております」


強くなければビジネスにならない


  テレビ埼玉の筆頭株主は埼玉県。地元の埼玉新聞と、読売新聞、朝日新聞、東京新聞、東京タイムスの五新聞資本が相乗りしての第三セクターである。もちろん、西武は大株主である。
  「西武戦は広告収入もいい。ローカルなのに、東芝とか松下などのナショナル・スポンサーが付きいますから。それに加えて番組販売収入も増えてきた。映像ソフトとしての西武戦の価値が上がってきたためで、ウチが制作した西武戦の映像を、TV神奈川などのU局や、NHKの衛星放送などに流しているんです。V局でも、日テレ系列のテレビ新潟や、テレビ東京系列のテレビ愛知などにも売れるようになりました」
  民間通信衛星の打ち上げには期待している、という。通信衛星を通じて全国各地のプリンスホテルに映像を容易に送信できるようになるからだ。衛星ニューメディアについては口述するが、都市型CATVが普及すれば、全国各地のCATV局に番組提供することもできるようになる。
  しかし、高橋部長としては、これ以上のライオンズの地位向上は、素直に喜べないという。
  「あまりライオンズが日本一を続けますとね、ウチは困るんですよ。映像ソフトとしての人気が高くなって放映権料も上がる。V局のキー局と争奪戦なんてことになったら、ウチは資金的にはとても太刀打ちできません」
  テレビ埼玉クラスだと放映権料は一本約400万円。対してキー局だと1,200万から1,300万円が相場であるといわれる。この価格差は、全国ネットをもっているキー局の強さのあらわれでもある。
  「民放各局は、日本シリーズの権利をとりたいわけです。日本シリーズを放送することは、高視聴率が約束され、いい商売になるということ以上に、局のステイタスにつながるんです。放映権はペナントを制したチームにありますから、それをどこの局にゆずるかは、ペナントレースの放映実績で評価することになる。だから各局とも、競って西武のペナントレースを放送しようとするんですよ」
  ペナントを制するということは、日本シリーズという付加価値を手にすることでもある。プロ野球チームはまず、強くならなくては、ビジネスにならない。


巨人人気は永久に不滅ではありません


  さて、ところで日本テレビは、巨人軍が低迷を続ける間に、セの他球団やパ・リーグ各球団が人気・実力ともに力をつけてきたことを、どうとらえているのだろうか。
  「うーん、安泰じゃないでしょうね。色でいえば、昔は鮮やかな原色だったのが、少しくすんだトーンになってきている」
  巨人の人気は永久に不滅だろうかという問いに、日本テレビの野球中継担当プロデューサーの岩崎晃氏は、意外にも率直に危機感を口にした。
  「外的要因が大きいと思いますよ。今は、様々なスポーツイベントがある。ウチも『横浜国際女子駅伝』を放映しているんですが、これが20%を超えてる。マイク・タイソンも20%とる。テレビでのスポーツ中継の多様化がすすんで、昔のように野球一辺倒じゃなくなってきています。むろん外的要因だけじゃない。巨人と他球団とでは、昔は勝負にならなかった。その差が縮まってきているのは、各球団の企業努力によるところが大きい。セの各球団も、以前とは違って本気で優勝しようとしてきていますし。今後は、今までの人気におんぶするばかりではなく、我々も巨人も努力しないと」
  民放各局がパ・リーグへ色気を見せ始めたのには、その理由のひとつとして深夜枠が開拓され、物理的に放送時間枠が増えてきたこともあげられる、という。
  「我々も手をこまねいているわけではない。巨人戦以外のカードもやりますよ。今年はロッテ戦とダイエー戦を放映します。ローカルではなく、全国ネットでです。これは画期的なことなんです。巨人一辺倒の日テレが、パに目を向けたということは。今の時代を見ていると、ご理解いただきたい。今後はパの野球と野球以外のスポーツも含めて、新しい商品開発をしていくと同時に、巨人戦の商品価値がこれ以上下がらないよう努力していきます。巨人にスーパースターが出てきて、優勝してくれればありがたいですが。我々も、通信衛星を通じて各地のCATV局に、巨人戦の完全中継の映像を送るなどのサービスを考えていきたいと思っています」


通信衛星がスポーツ報道を変える


  さる3月7日、日本通信衛星(JC・SAT)の通信衛星が打ち上げられた。日本初の民間通信衛星の誕生というこのエポックは、90年代に向けて日本においても衛星ビジネスが本格化するという、無言の宣言のようなものである。
  ジャーナリストの少々困った性癖のひとつは、時代の「転機」「ターニングポイント」「曲がり角」といった言葉をとかく多用しがちなことだが、衛星ニューメディアの時代を迎えて、現在のプロ野球と映像メディアの関係に「転機」が訪れようとしていると表現することは、そう的はずれではあるまい。
  8月には2機目の衛星を打ち上げる予定のJC・SATは、伊藤忠、三井物産などが出資して設立した衛星会社であるが、三菱グループ系のもう一つの衛星会社である宇宙通信(SCC)も、4月と10月に通信衛星を打ち上げる手はずを整えている。順調に計画が遂行されれば、来年までには宇宙開発事業団の衛星2機とあわせて、6機もの通信衛星が宇宙に浮かぶことになる。
  この本格的な通信衛星時代への突入とともに、飛躍的な発展が期待されているのが、都市型CATVである。通信衛星を媒介にして、CATV局と番組提供会社(サプライヤー)とを結ぶスペース・ケーブルネットが組まれ、全国どこのCATV局でも、瞬時にして大量の映像ソフトを、サプライヤーから提供されるようになるからだ。


通信衛星がスポーツ報道を変える


  衛星ビジネス先進国の米国で、オープン・スカイ・ポリシー(衛星通信サービスの自由化)が採用されたのは72年。74年に最初の民間通信衛星が上がり、翌75年にHBO(ホーム・ボックス・オフィス)が、初めて衛星を使ってCATV局へ番組提供を開始した。これを皮切りにして、各CATV局と各サプライイヤーは、次々とスペース・ケーブルネットを形成し、拡大、発展を続けてきた。現在、CATVの加入世帯数は約4千万、普及率はすでに50%を超えている。
  CATVの魅力は、ニュース、映画、音楽、ホームショッピング、宗教、ファミリーエンターテイメント、アダルトなど多種多様なプログラムを、20〜30ものチャンネルで見ることができることである。そうした多様な映像ソフトの中でも、とりわけ人気が高く大きなウェイトを占めるのがスポーツで、サプライヤーの中には、ESPNのように24時間スポーツ番組を流しつづける会社もある。
  こうした新しい大規模な映像ネットワークの登場によって影響を受けたのは、ユーザーばかりではない。放映される側、たとえば大リーグにも大きな変化がもたらされた。
  NHK衛星放送の、大リーグ中継のゲスト解説者である福島良一氏は、その変化をこう語る。
  「日本とアメリカでは、球団のメディア戦略も、興業形態もまったく違うんです。アメリカではフランチャイズ制が完全に確立されていて、テレビはそれぞれのローカル局が地元球団のゲームを放送するのが中心で、全国ネットの番組というのは、ABCとNBCがそれぞれ週に一回ずつ、ペナントレースの好カードをピックアップしてオンエアするだけでした。しかもABCのほうは、6月から8月までの3ヶ月間だけ。5月末まではプロバスケットのシーズンであり、9月からはフットボールのシーズンが始まるからなんです」
  アメリカには、もともと巨人のような全国区人気のスーパーチームはみあたらず、また、巨人戦のテレビ中継のように、全国津々浦々、同一球団の試合が連日連夜放映されるという状況も存在しなかった。大リーグの球団経営の中心は、そもそもテレビ視聴者より球場に足を運ぶファンを大切にすることにあり、全米でもっとも経営が安定しているといわれるロサンゼルス・ドジャースなどの場合、ドジャースがビジターとしてよその土地でゲームをしている夜は地元のテレビで放映されるが、ホームゲームの場合は、テレビ中継はブラックアウトされてしまう。「ドジャースのゲームをごらんになりたければ、ドジャースタジアムへどうぞ」というわけで、この方法でドジャースは年間入場者300万人突破を今までに7回、記録している。
  ところが、76年を境に事態は一変する。
  「76年に、フリーエージェント制が改正され、74年にドジャースで20勝したアンディ・メッサースミスがその第一号になったんです。その彼を獲得したのが、あのCATVの帝王テッド・ターナーが買収したアトランタ・ブレーブス。ターナーはメッサースミスに期待をかけて、背番号17を送りました。17という数字は、彼が率いるWTBSスーパーステーションのチャンネル数なんです」


ビッグビジネスとして膨張しつづける大リーグ


  ちなみに、スーパーステーションとは、全米の三大ネットワークに加盟していないローカルの独立テレビのウチ、通信衛星経由で全国のCATV局に自局の番組を供給する機能を持つテレビ局のことで、テッド・ターナーがアトランタのしょぼいローカルUHF局を買いとり、76年に衛星を使ってサービスを始めたのが最初である。スーパーステーションの開局と、ターナーによるブレーブスの買収と、フリーエージェント制の実現は、まったく同じタイミングでスタートを切ったのだ。
  「ターナーは、WTBSを通して全米にブレーブスの試合を流し始めたんですが、これは画期的なことでした。特定チームの試合が全国同時に、しかも連日のように放映されるなんてことは今までなかったことですから。ターナーはブレーブスを日本の巨人のように仕立てあげたかったようで、『アメリカズ・チーム』とまで自称していたくらいです。実際、CATVの影響は大きくて、敵の本拠地スタジアムで、ブレーブスを応援する観客のほうが多いなどという、従来では考えられなかったような現象も起きたんです。その後もターナーはフリーエージェント制を利用して、次から次へと大物プレイヤーをカネで獲得し、82年には地区優勝するまでに至ったんですが、それをピークに下降線をたどり、以後は毎年最下位を低迷するようになってしまいました」
  カネでチームをつくることの限界が、ここにある。フリーエージェント制で獲得したプレイヤーは、大金をつかんだためにえてしてハングリー精神を欠くものだ。ブレーブスは、ドジャースのようなウイニング・トラディションをついにもちえなかった。ドジャースには、いかにして優秀な選手を育て、強いチームをつくり、その戦力を維持していくかという文化があり、ターナーのチームには、カネはあってもその文化がなかった。その差だ。
  しかし、ターナーの起こしたメディア革命のほうは、その後も球界に大きな波紋を広げていった。
  「ターナーにならって、80年代に入り三つの球団が衛星波によって全国区のチームになったんです。スポーツ・チャンネル社と契約したニューヨーク・メッツとヤンキ−ス。それからシカゴ・カブスが、スーパーステーションのひとつであるWGNによって全国にオンエアされるようになりました。これら全国区球団の人気は、どんどん上がっていってます。特にニューヨーク・メッツは、元巨人の助っ人外人だったデーブ・ジョンソンが監督になってから、86年にワールドチャンピオンとなり、88年にも地区優勝を果たしています。観客動員も300万人を突破していますし、今、野球の実力でも、メディア戦略でも、一番成功しているチームでしょうね」
  特定球団にかたよらないテレビ全国中継の状況も、大きく変わることになった。従来のABC、NBCとの契約が切れたあと、大リーグコミッショナーは、CBS、ESPNと新しい契約をかわした。それによれば、CBSが90年から公式戦を12試合と、ワールドシリーズ、プレーオフ、オールスターゲームの三大ビッグイベントを放映し、ESPNのほうは、大リーグ全26球団の公式戦をまんべんなく週に6試合ずつ、年間に175試合、各CATV局にプログラム供給する予定である。全国放送がこれで一挙に増えるとともに、莫大な放映権料が各球団の懐にころがりこむこととなり、大リーグは衛星メディアの発展とともに、さらなるビッグビジネスとして膨張しつづけている。


都市型CATVの将来性


  日本に話を戻そう。
  『日経ニューメディア』誌の福真多孝編集長は、日本における衛星ニューメディアの将来性についてこう語る。
  「アメリカで起きたテクノロジーの新しい波は、十年遅れで日本にやってくるといわれています。日本ではCATVに加入している世帯数がまだ少ないので、都市型CATVの将来性を疑う人も多いですけど、私は発展する可能性は高いと思いますよ。ただ、それがプロ野球のプログラムの多様化に結びつくかどうか……。西武戦を放映しているテレビ埼玉や、関西で阪神戦を放映しているサンテレビなどのU局が、衛星を使って突然スーパーステーションになってしまう可能性はあります。これは技術的には何の問題もありません。しかし、アメリカと日本では社会条件がまったく違いますからね。日本の場合、既存のテレビ局がサプライヤーの役割を果たすことになりそうですが、日本テレビは民放の中でも熱心にCATVに取り組んでいて、特に巨人戦の完全中継プログラムは、今後各CATV局にとって大きな目玉になりそうですから」
  都市型CATVによってもたらされる多チャンネル化が、多様化に直結せず、むしろさらなる巨人神話の補強につながってしまう、そんな皮肉な事態が起こりうるらしい。
  東京23区内ではじめて開局した本格的都市型CATV局の、文京ケーブルネットワークをたずねた。
  文京ケーブルは、昭和60年に設立され、昨年4月から放映されたばかり。NHK衛星放送と、東京ドームでの巨人戦の完全中継が目玉となり、設立当初から好調に加入者が増えているという。
  「ウチは都市型CATV局では最大手ですが、それでも加入者はまだ8千。日本のCATVの普及はまだまだこれからです。よくアメリカの、映像ソフトの権利団体のセールスマンがくるんですが、『ウチはまだティーンエイジャーにもならない子供だ』と言うと、『じゃ、ティーンエージャーになったら、またくるよ』と言って帰っていきます」
  と、広報担当の藤井誠氏が苦笑する。
  文京ケーブルの自主放送は三波あり、そのうちのひとつ、後楽園チャンネルで、巨人戦の完全中継が放映されている。
  「ウチの出資会社のひとつが後楽園スタジアムでして、東京ドームのイベントをすべて放映するというのが、後楽園チャンネルの方針なんです。音楽は権利関係の問題があってダメですが、ドームで行われるスポーツイベントは、巨人戦に限らず、日本ハム戦、アメフト、都市対抗野球など、すべて網羅します。今後は、CATV局としてだけでなく、サプライヤー機能ももとう、ということで、この4月からは番組販売にも乗り出す予定です」
  田子俊哉プロデューサーの説明によれば、目玉商品となるのは、やはり巨人戦。巨人の人気のそこの深さをつくづく思い知らされると同時に、この国では「選択の多様性」などというものはそもそも成立しないのではないかという思いにとらわれるという。
  「多様化とはいいましても、たくさんある選択肢から自主的に選ぶことを日本人はしないですね。多チャンネル化は今のところ、ただソフトの数が増えてバラけただけ、という受けとめ方をされていて、ユーザーの側に選択の自主性がない。CATVの本来的な役割はモア・チャンネルということなのですが、新しいものには抵抗感があるようです。今までの娯楽の楽しみ方の延長線上に、CATVがあるという感じです。巨人戦もそうですが、他にJRAチャンネルというのが人気があって、これは後楽園にある場外馬券売り場のモニターと同じ映像が映るんですよ。それで、電話で馬券を買うわけです。そのほか、双方向性機能をいかしてリクエスト対応のできるカラオケチャンネルとか、ニューメディアとはいっても、けっこう下世話なんです。ハハハ。今までの娯楽が、少し便利に楽しめるようになっただけ、という感は確かにあります」
  「でも、その一方で、新しい動きも感じます。日本ハムの人気がじわじわのびているんですよ。ドームのブースで中継しているときに感じることですが、日ハム戦にきている観客は、いい意味でクールですね。野球そのものを見にきているファンが多いです。巨人戦に来るファンのように、とにかく熱狂しなければいけないという切迫感がない。F1やアメフトなどの新しいスポーツも、人気が出てきています。F1が、こく年齢層にも人気があるのは予想外でしたね。結局、ただ単にプログラムを提供するだけではダメで、新聞や雑誌や他のメディアによってサポートしてもらわないと。ユーザーに新しいプログラムの新しい楽しみ方を伝えていかないとダメですね」


ファン人口を気にせず世界の一流スポーツを


ESPNの映像ソフトを、CATV局向けに供給する権利をもつジャパン・スポーツ・チャンネルは、まだ企画会社の段階ではあるが、いずれ日本初のスポーツ番組専門の番組供給会社となることを目指している。伊藤忠ビルに、同社取締役の小林三郎氏をたずねた。
  「アメリカでCATVがあれだけ発達した大きな理由は、受信料が非常に安いことです。月額40セントくらいのもの。これは衛星(ホシ)の利用料金の違いからくるんです。米国は日本の十分の一以下の値段で、ホシを利用できる。これがスペース・ケーブルネットの発達に大きく貢献したわけです」
  日本でも、民間通信衛星が何機も上がれば、トランスポンダ(中継器)の数が増えて、コストが下がるのでは?
  「それでもまだまだ、ゼニがかかりすぎる。日本で独自にESPNのようなビジネスをやるのは、まだ難しい。たとえばプロ野球中継にしたって放映権も高いし、既存の地上波の局と権利の獲得を争うには、衛星の利用料金がもっと安くなり、ケーブル端末数がもっともっと増えて市場が大きくならないとムリ。我々はとてもじゃないが、地上波のTV局のような資力はないし、採算があわない。それに、日本の視聴者には、テレビはゼニを払ってみるものだという考えがないでしょう。NHKの受信料ですら払わない人がいる。それが、一番の問題かもしれないですよ」
  将来はともかく、当分はプロ野球番組の供給は難しいと、小林氏の展望はいささか悲観的ではある。確かに、日本人の市長行動そのものに変化がないと、CATVは普及しないかもしれない。普及しなければコストは高くつき、ソフトの充実ものぞめない。悪循環である。ハードの発達が文化変容をもたらすのか、視聴者の変化がハードの発展を促進するのか。まるで、ニワトリが先か卵が先かと頭を悩ますのに似て、これでは堂々めぐりである。
  しかし、そう悲観ばかりしたものでもないと、NHKスポーツ報道センターの倉見芳和チーフプロデューサーと会ってから思い直した。衛星放送のスポーツ担当責任者である倉見氏は、衛星メディアの将来に手応えと確信を抱いているようにみえた。
  「衛星第一放送では現在、ワールドニュースと、スポーツ、映画、音楽などのエンターテイメントを24時間放送しているわけですが、中でもスポーツは目玉であると我々は考えています。我々は当初から考えてきたことは、とにかくマニアックでもいい、日本での競技人口やファン人口などを一切気にせず、世界の一流スポーツをとりあげようということなんです。GTV(NHK総合放送)が、視聴者の最大公約数を反映した総合大型店なら、我々は専門店に徹しよう。たとえていえば、アメリカの輸入物のチョコはおいてあっても、森永の製品はないという感じですな」


ソウル五輪の"事件"


  昭和61年2月、放送衛星BS−2bが打ち上げられ、実験放送ではあるが、世界ではじめて衛星放送が放送開始された。現在は、衛星独自のプログラムを組んでいる第一放送と、地上波の総合テレビと教育テレビを混合編成して流している第二放送と、二つのチャンネルをもつ。
  倉見氏の言葉どおり、スポーツが看板の第一放送では、アメリカの三大メジャースポーツである、大リーグ野球、NBAのプロバスケット、NFLのプロフットボールの試合を、びっしりとプログラムを組んで放送している。
  「大リーグは4月から9月までのシーズンの間、毎日一試合、週7本欠かさず放映しています。ニューヨークのコネチカットにあるグループWという伝送会社から、太平洋上の国際衛星・ギャラクシー2を通じて、その日のナイターが毎日送られてくるわけですが、このVTRからCMを抜いて編集したあと、こちらのアナウンサーと、レギュラー解説者の方たちに、スタジオでモニターを見てもらいながらぶっつけ本番で実況と解説を収録するのです。だからVTRの放送とはいえ、ほとんど生同然ですから、ライブ感があるんです。時間差のある生放送といってもいい」
  「大リーグはやはり、日本の野球とは、スピードといいパワーといい雲泥の違いがあります。同じルールの別のスポーツ、という気がしますね。NFLやNBAのプログラムについてもそうですが、確実にファンが増えつつあって、試合カード選択についてのお叱りの手紙とか、専門的で鋭い反響がかえってきますよ。そもそも一番最初のファンは、日本のプロ野球選手たちだったようです。放送開始時は夜11時から放映していたのですが、二年目からプライムタイムにもってきた。すると、彼らはその時間、球場で試合をしているので見ることができない。放送時間帯の以降は選手たちにはずいぶん不評のようでした」
  考えてみれば、実に贅沢なプログラムである。かつて野球関係者が、渡米して大リーグを見て帰国すると、それだけでハクがついたなどというのは、もはや何百年も前の遠い昔話のような気がする。実験放送という大義名分で半ば採算を度外視しているからこそできることだろうが、この贅沢さをごく当然と受けとめる視聴者層も登場してきているようだ。
  「国民全体が、ひとつのプロ野球カードに夢中になる時代じゃない。特定球団にこだわらず、プロ野球そのものが好きというファン、あるいはスポーツそのものが好きだというファンが増えていると感じます。どこの国のどんなプレイヤーであっても、それが一級品なら好きだというファンが増えてますよ。ソウル五輪のとき、非常に驚いた事件があったんです。衛星第一放送では、オリンピック中継を朝8時半から夜中の12時半まで続けたんです。この場合も、日本人選手が活躍する種目はあえてさけたんです。そういうのはGVTでちゃんとやるわけですから、日本とは関係なく、国際的に注目の高いバスケットやサッカーなどを重点的に放映したわけです」
  "事件"が起きたのは、ソ連対イタリアのサッカー中継の時だった。このカードもまた五輪でないと実現しない、ファンにとっては答えられない組み合わせである。
  「案の定、白熱した展開になりまして、0対0のまま延長に入ったんですが、そのときちょうど、柔道会場で日本の斉藤選手が決勝の舞台に立ったんです。これは大変な場面なわけで、いくら衛星といえども放送しないわけにはいかないと、サッカー中継をぶったぎって柔道会場へ切りかえたわけです。この判断は、従来のテレビジャーナリズムの基準からいけば、ごくごく正しい判断だったと思います。ところが、『なんでサッカーを切るんだ』と、大変な数の抗議の電話が殺到したんですよ。これには本当に驚かされました。柔道だろうが、日の丸だろうが、関係ないんですね。そのときあらためて、衛星放送の役割というものを再認識しました。反省しましたよ。五輪のサッカーや、バスケの米ソ対決を見たくて、衛星のアンテナを取りつけた方は多かったわけですからね。我々は専門店としての信用を裏切ってはならない、と思いました」


天皇崩御の日もアイビーボウルを放映


  本家のGTVが常識的な基準でちゃんと放送しているんだから、本来モア・チャンネルであるべき衛星放送がその基準に追随する必要はまったくない、ということですね。
  「そうです。本家がしっかりしているから、我々次男坊は安心して不良をやれる。ハハハ。日本のプロ野球に関していえば、今年は放映枠を一挙に増やします。巨人戦以外のセのカードを西武戦を中心としたパのカードをあわせて40本近く放映する予定です。巨人の露出度は高いから、我々が放映する必要はまったくない。我々の役割はそこにない。試してみようと思ってるんですよ。巨人戦以外のカードが人気が落ちるのは、単に今まで放映される機会が少なかったためなのか、それとも、もともとつまらないものなのか。そういう冒険は、GTVでも民放でも、リスクが大きすぎてなかなかできない。だから我々がやってみようじゃないか、ということなんです。これがいいと、価値観を押しつけるつもりはありません。プロ野球に限らず、あらゆる分野で、いろいろな特性をもったチャンネルがあって、見る方が選択する。そうなるようにしたい」
  あの1月7日、天皇崩御の日も、衛星放送はプログラムを変更せず、アメフトのアイビーボウルを放映した。内部からも外部からも、批判はまったくなかったという。官僚的なイメージのつきまとうNHKの、この意外な大胆さに喝采を送りたい。大胆とはいっても、ただ周囲の状況が異常だから、突出してみえるだけのことで、ごくごく正常で健全な判断であると思う。
  衛星放送の受信世帯数は、現在約130万。急速に伸びつつある。衛星放送の再送信プログラムがあるという動機で都市型CATVに加入する人も多いから、CATV端末の増加にも貢献するだろう。NHKの過激な突進に、民間資本が引っぱられる。日本の衛星ニューメディア普及拡大のシナリオは、案外そのあたりにありそうだ。
  いずれにしても、一プロ野球ファンとしての願いは、昨年10月19日の近鉄とロッテの最終戦のようなゲームを再び見たい、ということにつきる。9回表の攻撃が終わって、自軍の勝ちがなくなり、同時に優勝を逸した直後、守備につくためグラウンドに散ってゆく近鉄ナインの姿に胸がしめつけられたのは僕だけではあるまい。そんな感動を味わうことができるならば、ニューメディアなどというたいそうなものも喜んで受け入れよう。
  そして、ひとつつけ加えておけば−−。
  多チャンネル化が多様化に首尾よくつながり、巨人神話が解体された後、もしも奮起した巨人が強く魅力あるチームに再生することがあったなら、そのときは再び巨人ファンに復帰することに、いささかもやぶさかではない。

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