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「週刊ポスト」 2000.9.1

和田新体制は徹底解明せよ!

倒産・そごうの労組委員長水島前会長の裏側近
銀座大豪遊「ドンペリの夜」1軒26万円


 ここに、数十通の売上伝票がある。「ピンドン1本、ヘネシー2本で26万円」「枝豆、ヘネシー2本、25万円」――目を疑うような数字が並ぶ。この信じがたい濫費が、そごうの経営危機が深刻の度を増していた平成10年ごろ、しかも連夜行なわれていたのだ。我々は、社内有志の怒りの告発により、その動かぬ証拠を入手した。


なぜ組合は立ち上がらないのか


「怒りを通り越して、情けないというしかない。恥ずかしいですよ。売り場の最前線に立つ社員は、毎日、つらい思いをしているのに」
 40代のそごう社員は、吐き捨てるように、いった。
 日本最大の百貨店グループ・そごうに、約40年にわたって、カリスマ経営者として君臨してきた水島廣雄前会長(88)。都内世田谷区の自宅隣に所有していた土地と家屋1億2000万円相当が、ひそかに義弟に売却されていたことが、先日明らかになった。
 メーンバンクの日本興業銀行の申請に基づき、東京地裁は、水島前会長に個人債務保証を履行させるため、資産の仮差押処分を決定していた。売却は、差し押さえ逃れの疑惑が濃厚だ。
 水島前会長が自己資産の維持に奔走する一方で、そごう社員の窮状は深まるばかりだ。
 有楽町そごうに勤務している30代の男性社員は、
「民事再生法適用申請の発表以来、売り上げは3割以上、落ち込みました」
と暗い表情で嘆く。
 土地値上がりを見込んで銀行から多額の資金を借り入れ、「地域一番店主義」を掲げて拡大路線をひた走ってきた水島そごうが、バブル崩壊によってつまずき、経営危機に陥ったのは、6年前の94年。以後、97年2月期までに社員数を3000人削減するリストラを断行、新卒の採用はストップ、既存社員の給与も削られ続けてきた。
「今は2年前の6割以下。残業代もカットされ、ボーナスも夏冬あわせて、やっと1か月といったところ。お先真っ暗ですよ」
 かつては、35歳の係長クラスで年収は約700万円。それが今では、同じクラスで年収400万円を切るという。
 ところが、給与や雇用問題に関して、「全そごう労働組合」が、経営陣を突き上げたなどという話は、まったく聞こえてこない。
「労使協調」の名の下に、組合員の正当な権利を要求することすら忘れてしまった御用組合は、そう珍しくはない。しかし、そごう労組の異色ぶりは、確かに際立っている。
「そごう労組は完全に孤立しているんです」と、百貨店労組の上部団体・商業労連の幹部は語る。
「商業労連には伊勢丹、松坂屋、高島屋、松屋、東急、京王、丸井などの労組が加盟しています。我々とは別に、西武、三越、大丸,小田急、名鉄、阪急、近鉄の7社の労組は、7労組連絡協議会を結成しています。西友などのスーパー等もチェーンストア労働組合協議会を「結成しており、それぞれ交流があります。
 ところが、どの組織の呼びかけにも、そごう労組は応じないし、交流しようとしない。大変な時だからこそ、我々としても手助けしたいと、今も彼らに呼びかけているのですが、まったく反応がない」
 そごう労組が、倒産に至ってもなお、沈黙を決め込むのは何故なのか。関東地方のそごう某店に勤務する、50代の男性管理職が解説する。
「今、水島前会長だけが世間からバッシングされていますが、あの人に取り入って甘い汁を吸った取り巻き連中も同罪ですよ。山田恭一前社長以下、経営幹部はみな、そごうを倒産させた戦犯です。
 でももう一人、罪の重い戦犯がいる。そごう労組のF中央執行委員長(59)です。彼こそは、水島超ワンマン体制を、影で支えてきた人物です。
 嘘だと思うなら、ミナミや銀座や赤坂で彼らが毎晩何をしているか、調べてみてください」


一人で来店してピンドンを


 F氏は、78年10月の中央執行委員長就任以来、22年にわたってそごう労組に君臨し続けてきた人物である。長期にわたる権力は必ず腐敗するといわれるが、確かに前出の50代管理職の言葉に嘘はなかった。
 我々は取材の結果、銀座のある高級クラブが振り出した「F様」と記入された「全そごう」あるいは「全そごう労働組合」宛ての売上伝票の写しを大量に入手した。
 たとえば1998(平成10)年3月某日の請求書。F氏ともう一人の計2人で来店して、1本3万2000円のヘネシーを2本、さらに1本8万円もするドンペリ(シャンパンの最高級ブランド「ドン・ペリニョン」の略)のロゼ、いわゆるピンドン(色がピンクをしていることから「ピンクのドンペリ」を省略してこう呼ばれる)を1本注文している。請求額は、何と26万円あまり。誰か賓客を接待していたのだとしても、常識では考えられない高額な金額である。
 前述のとおり、そごうは94年に経営危機に陥り、興銀と日本長期信用銀行(現・新生銀行)から役員を送り込まれ、事実上、銀行管理会社となった。F氏が1軒だけで26万円も飲んでいたのは、経営危機が、その94年時点よりもはるかに深刻化していた時期だ。
 伝票を詳細に調べると、「一人」の場合も少なくないことに気づく。98年8月の某日は、F氏一人で某店に来店し、カクテルに加えて、やはり8万円のピンドンを頼み、16万円あまりを使っている。別の日にも、一人でヘネシーを注文、10万円あまり請求されている。さらに別の日にも一人でボージョレ−・ヌーボーをあけて、約6万円に――。
 一人で来店して誰かを「接待」することはありえない。個人的な遊興費を、組合にツケ回ししていた、と考える他はない。こんなことが許されるのか。日本労働弁護団の水口洋介弁護士はこう語る。
「組合幹部たちが組合費を組合活動のためでなく、自己の遊興目的で使ったことが明確である場合、たとえば一人で飲んでいたケースなどは刑法上の背任であり、業務上横領に相当する違法行為です。この場合、組合および組合員が被害者であり、使い込みをした幹部達が加害者になります。また、複数名で飲食した場合、その金額の多寡のみで違法性は問えないが、使途が不明瞭ならば、臨時大会を開くなどして、幹部に使途を質(ただ)すべきでしょう。明確な回答が得られない場合は、刑事告訴、あるいは民事で損害賠償請求することも可能です」
 興味深いのは、平成10年の某日の請求書である。この日はF氏を含め、3人で某クラブに足を運び、3万円のドンペリと、ヘネシーをそれぞれ1本ずつオーダーしている。この日の金額は、合計18万円足らず。宛先は他の伝票同様に、「F様」とだけ書かれているが、その上に、「全そごう 水島様」となっている。
 これはどういうことか。同店の元従業員の証言によると、当日、水島前会長の姿はなかったという。とすれば、F氏は、自分が使った法外な価格の飲食費を、水島前会長にツケ回していたことになる。仮にそうだとするならば、F氏の「放蕩」が、ワンマン経営者の認知と許可のもとに行なわれたことを意味する。
 そごう再建のため、そごう特別顧問として迎え入れられた西武百貨店元社長の和田繁明氏のもと、旧経営陣の責任追及プロジェクトチームが、すでに結成されているが、その中心メンバーの石寄信憲(いしざき・のぶのり)弁護士は、こう言明する。
「組合費が不正に使われた場合、それを質す当事者は第一義的には組合員の方々です。しかし会社の経費が流用された場合は、我々自身の手で徹底的に責任追及を行ないます」
 注目すべきことは、伝票に書き込まれた入店時刻と退店時刻の記録である。ほとんどが2時間未満で席を立っている。店にいる時間は、決して長くない。
「Fさんたちは、必ず一晩で銀座のクラブを何軒かハシゴするんです」
 銀座のクラブの下ホステスのA子は、そう証言する。
「Fさんが誰かを接待してたのは見たことないわ。いつもFさんが、取り巻きの部下を連れて飲みにくるパターン。組合員ではなく、そごうの役員の方がきても、一番偉いのはFさんで、皆が気を遣っていたもの」
 別のホステスB子も、F氏の豪遊ぶりについて、こう証言する。
「Fさんは東京と大阪を往復していたけど、東京にいるときは、ほとんど毎日、銀座に繰り出してたんじゃないかしら。行きつけの店が、あちこちにあったから」
 確かに、確認できただけで、F氏らがひいきにして「精勤」していた店の数は、十指を数える。


「日本で一番偉いヒラのサラリーマン」


 複数の証言者が耳にしている、F氏の口癖がある。「俺は、日本で一番偉いヒラのサラリーマンだ」というものだ。そごうの「天皇」こと水島前会長に次ぐ実力者は自分であると、広言してはばからなかったという。
 F氏の取り巻きの一人は、彼が口にした昔話を鮮明に記憶している。
「Fさんは、こういったんです。『俺も若い頃は、売り場に出て働いていたんだ。その俺を、会長が取り立ててくれた。そして「お前は、組合をみろ。お前には役はつけないが、それ以上の力を与えてやる」といわれたんだ』と――」
 前出の50代管理職も証言する。
「ウチでは、組合幹部にゴマをすり、組合内部で出世して組合執行委員にならないと、会社の中でも出世しない。これはウチの社員なら、皆わかっている不文律です」
 銀座の某クラブの従業員は、こう語る。
「Fさんと一緒にこられたそごうの方は、誰一人煙草を吸いませんでした。Fさんが煙草を吸わないため、皆さん、禁煙なさるんです。後日、Fさんがいってました。『俺は昔、酒が一滴も飲めなかった。でも水島会長が飲む人なので、無理して飲んでいたら、いくらでも大丈夫になった』って。水島さんに対してFさんが従ってきたように、他の方々は、Fさんに従っているんです」
 F氏への忠誠は、水島氏への忠誠に直結する。水島天皇が、各店舗を視察する時には、必ずF氏の姿があり、式典などではF氏が音頭をとって「水島社長様万歳!」と叫ぶのが恒例だったと、前出の管理職はつけ加えた。事実、そごうが次々と店舗を拡大していった時期に製作された記録映画の映像には、店舗を視察する水島前会長のすぐ後ろにつき従うF氏の姿が映っている。その映像の一部は、NHKの『クローズアップ現代』(7月12日放映分)に引用され、オンエアされた。
 預金保険機構=国は、旧長銀をリップルウッド社に譲渡する際、そごう向け債権の引当金として1000億円をつんでいる。また、すでに新生銀行の債権2000億円を、国民の血税で買い戻すことが決まっている。その破綻の一端が、経費の濫用にあるとすれば、やはり水島前会長と同様に、F氏の責任も問われるべきである。
 また、元全国労働組合総合連合副議長で、労働問題に詳しい猿橋真氏はこう指摘する。
「そもそも労組は、経営のあり方を厳しくチェックするための存在。そごうの場合、97年ごろから経営が危ぶまれていたわけですから、この間何もしなかったとすれば委員長以下、労組幹部の責任放棄といえる。
 またF氏は20年以上にわたり委員長の座にあるとのことですが、常識的には5年、長くても10年くらいで自ら身を引くべきで、労組のあり方として健全ではなかったのではないか」
 次期社長には、先述したそごう特別顧問の和田繁明氏が決定している。本誌が、こうした水島前会長の”裏側近”であるF氏の濫費ぶりや人事権行使について、どう対処するつもりかと問い質したのに対し、同氏は、
「経営幹部であろうと、一社員であろうと、会社の金を不正使用した事実があれば、許すわけにはまいりません。従いまして、その調査に全力をあげるとともに、社員の違法行為が確認された場合は、徹底した責任追及をする所存であります」と、回答した。
 しかるにF氏およびそごう労組は、本誌の再三の取材申し入れに対して、「委員長は経営再建のため、全国を飛び回っているので、取材に応じられない」などと、かたくなに取材拒否の姿勢を続けてきた。
 8月14日にあわただしく開かれた同労組の臨時大会において、F氏の委員長辞任が唐突に発表され、さらに翌15日付でF氏は辞職届も提出した(8月15日現在、会社は未受理)。組合は彼に対して責任を追及する動きは、現在のところ見せていない。
 和田新体制が徹底解明を行ない、国民に対して情報公開することを期待したい



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